乗鞍へ行ってきた。
本当は朝5時30分に走り始めるつもりだった。
ところが、三本滝ゲートの開門は6時。知らずに到着すると、係の方に「まだですよ」と止められた。
少し拍子抜けして笑ってしまった。
6時ちょうどにスタート。
ひんやりとした空気の中を走り始める。夏とは思えない涼しさが心地いい。
7時18分、畳平へ到着した。
三本滝からなら距離はそれほど長くない。「もう着いた」という感覚だった。
登っていて面白かったのは、自転車に乗っている人たちの遊び方だった。
本格的なロードバイクはもちろん多い。
でも、それだけではない。
後ろから追い抜いていったのは、まるで街乗りのような電動アシスト自転車。
その荷台にはスキー板。
夏の雪渓で滑るために登っていくのだ。
さらに普通のロードバイクにスキー板を背負って登る人もいた。
自転車は速く走るためだけの道具ではない。
山へ行き、雪を楽しみ、景色を味わい、自分の好きなことを組み合わせる。
そんな自由な遊び方を見ているだけで、こちらまで楽しくなってくる。
もちろん、自分も何台かのロードバイクに抜かれた。
速い人は本当に速い。
でも、不思議と焦る気持ちはなかった。
乗鞍はタイムを競うよりも、この場所を楽しみたくなる山だった。
途中、道路を横断しようとしている大きな黒いカタツムリを見つけた。
「こんなところで車に踏まれたらかわいそうだな。」
そう思って手に乗せ、道路の向こう側まで運んだ。
ほんの数秒の出来事だけれど、自分の中では今日の思い出の一つになった。
標高が上がるにつれて、高山植物が次々と姿を現す。
まだ雪渓が残っている。
その雪が解けたばかりの地面から、一斉に花が咲いていた。
長い冬を土の中で耐え、この短い夏だけに力を使う。
まるで「待っていました」と言わんばかりに競うように咲く姿は、本当に美しかった。
花畑というより、命が一斉に動き出す瞬間を見ているようだった。
天気は曇り。
遠くの山並みまでは見渡せなかった。
それでも、乗鞍岳の山頂はしっかり見えている。
雲が流れ、時折表情を変える山肌。
それだけで十分だった。
この景色の中を自転車で登っている。
それだけで満たされる。
畳平では、自転車を置いて魔王岳へ登った。
ほんの短い登りなのに、山頂へ立つと景色がぐっと広がる。
「あそこまで自転車で登ってきたんだ。」
そんな実感が湧いてくる場所だった。
帰りは来た道をそのまま下る。
けれど、本当はこのまま平湯の方へ下ってみたい気持ちになった。
知らない道の向こうには、また違う景色が待っているのだろう。
そんな想像まで楽しい。
以前登った渋峠は、「また行くか」と聞かれると少し考えてしまう。
もちろん素晴らしい場所だ。
でも乗鞍は違った。
「また来たい。」
それどころか、「毎週でも来たい。」
そう思えた。
次は三本滝ではなく、乗鞍観光センターから。
標高差も距離も増える。
ようやく、本当の乗鞍を最初から最後まで味わえる気がする。
その日が、今から楽しみだ。