7月5日、長野県立美術館で開催されている古代エジプト展を見てきた。
もちろんピラミッドや王様の時代の話も面白かったけれど、一番心をつかまれたのは職人たちが残した作品だった。
レリーフの輪郭線が、とにかく美しい。
顔のラインが滑らかで、見ているだけでうっとりする。
説明には「顔は横向き、体は正面、足は横向き」という古代エジプト独特の表現と書かれていた。
言われてみれば確かにそう描かれている。
でも不思議なことに、私は今まで一度も「変わった描き方だ」と思ったことがなかった。
何千年も前の様式なのに、自然に受け入れて見ていた自分にも少し驚いた。
展示には驚くほど細かい工芸品もたくさんあった。
そこでふと思った。
これ、目が悪かったら作れないんじゃないか。
私は眼鏡がなければ細かいものはほとんど見えない。
職人に必要なのは、見る目やセンスだけではない。
本当に「よく見える目」がなければ、これほど精密な仕事はできなかったはずだ。
眼鏡のない時代。
「見える」という能力そのものが、職人にとって生命線だったのだろう。
展示で少し笑ってしまった話もある。
ピラミッド建設に携わる作業員には、約9,500キロカロリー分のパンが4日に一度支給されていたという。
9,500キロカロリー。
カツカレー約9杯分である。
いや、そのパンってどんなパンなんだ。
カロリーパフォーマンスがすごすぎる。
石材の使い分けも興味深かった。
レリーフには比較的加工しやすい石灰岩。
彫像には花崗岩や玄武岩のような硬く緻密な石。
加工の難しさや用途を考えて、最適な素材を選んでいる。
「いい作品を作るためには、いい材料を選ぶ。」
そんな当たり前のことを、3000年以上前の職人たちは実践していた。
木製品が驚くほど良い状態で残っていたことにも感心した。
木という素材は、本当に優秀なんだと改めて感じる。
そして、小さな動物の彫刻でさえ、アウトラインが実に美しい。
大きな作品だけではなく、小さなものにも一切手を抜いていない。
こうした作品を見ていると、古代エジプトは豊かな文明だったのだろうと思う。
高度な建築技術、設計技術、彫刻技術、工芸技術。
それらが3000年以上も前にすでに存在していたことに素直に感動した。
このあと歴史は、ローマによる征服を経て、大きく変わっていく。
もし、この豊かさと技術がそのまま積み重なっていたら、人類は今とは違う世界を見ていたのだろうか。
そんなことまで考えながら、美術館をあとにした。
古代エジプト展は、歴史を学ぶ展示というより、人間の「ものを作る力」の凄さを改めて感じさせてくれる展示だった。