八方尾根。
ゴンドラ乗り場にはすでに多くの人が並んでいた。
8時54分、歩き始める。
9時20分、八方池。
八方池を過ぎ、稜線へ出た瞬間、視界が一気に開ける。
目の前に現れる剱岳、立山連峰。
何度見ても、この景色には息をのむ。
10時28分、唐松岳頂上山荘。
10時40分、唐松岳山頂。
山頂に着くと、不思議なくらい誰もいなかった。
私一人だけの山頂。
その静けさとは対照的に、トンボだけが気持ち悪いほど飛び回っていた。
11時ごろまで山頂で過ごし、唐松岳頂上山荘へ戻る。
そこから祖母谷温泉へ下る道を見下ろすのが好きだ。
見るたび、一人の先生を思い出す。
登山を始めたばかりの頃、祖母谷温泉で出会った中学校の先生。
夏休み、立山から入った先生は剱岳を登り、剱沢を経て阿曽原温泉へ。そして祖母谷温泉で出会った。
翌朝は雨だった。
先生は、この急登を登り、唐松岳、五竜岳、鹿島槍ヶ岳……と、北アルプスを一筆書きで縦走する旅へ出発した。
私は、その先生が尾根へ向かって歩き始める姿を写真に撮った。
22日後、先生は無事に旅を完成させた。
あれから随分と年月が流れた。
それでも祖母谷への道を見るたび、あの日の憧れがよみがえる。
私は山登りが好きだが、旅が好きなのだと思う。
自分の足で歩き、自分の力が続く限り、どこまでも行ける。
その自由が好きだ。